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馬場 祐治; 下山 巖; 平尾 法恵*
Applied Surface Science, 384, p.511 - 516, 2016/10
被引用回数:5 パーセンタイル:25.78(Chemistry, Physical)層状酸化物に吸着した放射性セシウムの化学結合状態を明らかにするため、放射性セシウムの原子数に匹敵するレベルの極微量セシウムおよび他のアルカリ金属について、放射光を用いたX線光電子分光測定を行った。人造マイカ表面に吸着したセシウムでは、X線の全反射条件で光電子分光測定を行うことにより、1cmあたり100ピコグラム(200ベクレルのCsに相当)までのセシウムの測定が可能となった。光電子分光スペクトルを詳細に解析したところ、セシウムとルビジウムでは極微量になるほど、内殻結合エネルギーが低エネルギー側にシフトした。一方、ナトリウムでは逆の傾向が認められた。これらの化学シフトを点電荷モデルにより解析した結果、いずれのアルカリ金属においても、金属-酸化物間の結合は微量になるほど、より分極が大きくなりイオン結合性が高くなることが明らかとなった。
林 和彦; 河裾 厚男; 一宮 彪彦
Surface Science, 600(19), p.4426 - 4429, 2006/10
被引用回数:5 パーセンタイル:27.18(Chemistry, Physical)陽電子に対する物質の結晶ポテンシャルは正の値になるので、陽電子ビームを真空層から物質に入射すると、ある入射角度以下で全反射が観察される。反射高速陽電子回折(RHEPD)における全反射では、入射陽電子の物質への侵入深さは浅く、陽電子ビームはおもに表面原子で回折される。このためRHEPDパターンのスポット強度分布は、最表面原子位置に強く依存している。したがって、スポット強度分布を解析することで、最表面原子の位置を正確に決定することが可能である。本研究では、アドアトムの原子位置を決定するために、Si(111)77表面からのRHEPDパターンを観測し、スポット強度分布を動力学的回折理論を用いて解析した。その結果、アドアトムの高さは下の層から1.550.10、平行位置は0.10の誤差範囲内で2層目のほぼ真上であった。さらに、全反射領域での陽電子の侵入深さは、アドアトムと2層目の層間距離の2程度であることがわかった。また、運動学的回折理論を用いた計算結果において、分数次のラウエゾーン上のスポット強度分布については、実験結果をよく再現しているが、整数次のラウエゾーン上のスポット強度分布については、実験結果と異なっていることがわかった。
林 和彦; 河裾 厚男; 一宮 彪彦
e-Journal of Surface Science and Nanotechnology (Internet), 4, p.510 - 513, 2006/05
Si(001)表面上の酸素吸着の初期過程は未だに不明な点が多い。特に酸素原子の吸着位置について実験的に詳細に調べた研究は少ない。そこで、本研究では、110KにおけるSi(001)表面上の酸素の吸着位置を、最表面の構造に敏感な反射高速陽電子回折(RHEPD)を用いて調べた。まず、110KのSi(001)表面に酸素分子ガスを吸着した時の、全反射の鏡面反射強度の変化を調べた。鏡面反射強度は、酸素の暴露量とともに減少し、約4Lで一定値になった。次に、110KのSi(001)表面に酸素分子ガスを0.1L, 1.2L, 4.1L暴露した後、RHEPDの鏡面反射強度の視斜角依存性(ロッキング曲線)を測定した。酸素の暴露量が増えると、全反射と004ブラック反射のピーク強度が減少した。この実験結果を、動力学的回折理論を用いて解析した。その結果、酸素は最表面及びダイマーのバックボンド位置に存在することが明らかになった。酸素が最表面に位置する結果は、陽電子消滅励起オージェ電子分光法による実験の報告と一致している。また、ダイマーのバックボンド位置に存在する結果は、光電子分光法による実験の報告と一致している。
河裾 厚男; 前川 雅樹; 吉川 正人; 一宮 彪彦
Applied Surface Science, 244(1-4), p.149 - 152, 2005/05
被引用回数:0 パーセンタイル:0.02(Chemistry, Physical)RHEPD全反射強度解析法を用いて、熱処理により形成される6H SiC(0001)表面の超構造を研究した。その結果、高温水素エッチングにより平坦化処理した6H SiC(0001)表面には、酸素吸着が存在することがわかった。これは900-1000Cの熱処理により脱離させることができ、それに伴い、RHEPDロッキング曲線の全反射領域に特徴的な吸収ピークが発現することが見いだされた。この熱処理では表面にSiアドアトムに付随する超構造が形成されることが報告されており、実際上の吸収ピークがこのモデルで説明できることが明らかになった。アドアトムと第一層の結合距離は約1.8であり、LEEDによる結果とほぼ一致している。また、1000C以上の長時間熱処理により、表面炭化が進行し、これに伴い陽電子回折ロッキング曲線も劇的に変化することが明らかになった。得られたロッキング曲線は、表面にグラファイト単層が存在するとしてよく再現できること、及びグラファイト単層とSiC第一層の結合距離が約3.3となり、グラファイト単層がファンデルワールス力により結合していることがわかった。従来この表面の構造としては、グラファイト層モデルとアドアトムによる再構成モデルが提案されていたが、RHEPDの結果は前者が有力であることを示している。
深谷 有喜; 河裾 厚男; 林 和彦; 一宮 彪彦
Applied Surface Science, 244(1-4), p.166 - 169, 2005/05
被引用回数:5 パーセンタイル:26.1(Chemistry, Physical)Si(111)--Ag表面は、最表面の銀原子が三角形に配置したhoneycomb chained triangle(HCT)構造が提案されていたが、最近、理論計算と低温STM観察により、銀の三角形が非対称なinequivalent triangle (IET)構造が基底構造であることがわかった。そのため、室温における表面構造が現在新たな議論の的になっている。この表面の構造決定においては、最表面に位置する銀原子の配置を正確に決定することが重要である。そこで、本研究では最表面構造に非常に敏感な反射高速陽電子回折(RHEPD)を用いて、表面構造解析を行った。実験は、相転移温度150K前後の140Kと室温で、Si(111)--Ag表面からのRHEPD強度の視射角依存性(ロッキング曲線)の測定を行った。特徴として、室温に上昇すると、全反射領域に見られるピークの位置が、高角側にシフトすることがわかった。第一原理計算によって決定されているHCT構造とIET構造の原子配置を用いて、動力学的回折理論に基づく強度計算を行ったところ、HCT構造からの全反射領域のピークは、IET構造に比べて高角側に位置することがわかった。以上の結果から、現在、Si(111)--Ag表面は、150K付近で秩序・無秩序相転移を起こすのではなく、構造変化を伴う秩序・秩序相転移を起こすと考えている。
林 和彦; 深谷 有喜; 河裾 厚男; 一宮 彪彦
Applied Surface Science, 244(1-4), p.145 - 148, 2005/05
被引用回数:4 パーセンタイル:21.64(Chemistry, Physical)反射高速陽電子回折(RHEPD)では全反射が観察される。全反射領域では、陽電子の物質への進入深さが浅いため、回折された陽電子は表面の情報のみを持つ。RHEPDを用いることで、最表面原子位置や表面デバイ温度を正確に決定することが可能となる。本研究では、RHEPDのこのような特徴を生かし、Si(001)清浄表面の構造を調べる。Si(001)表面は200K以下で、21構造からc(42)構造に相変化することが知られている。そこで、RHEPDパターン強度分布を相転移温度前後で比較した。室温において、全反射回折の起こる条件でパターンを観測した結果、(0,0), (-1/2,0), (-1,0), (-3/2,0), (-2,0)スポットを確認した。試料を150K以下に冷却すると、(0,0)スポットの強度は強くなり、(-1/2,0), (-1,0), (-3/2,0), (-2,0)スポットの強度は弱くなった。これは、表面構造が21からc(42)に変化したためであると考えられる。原子構造を決定するために、室温と150Kにおいて鏡面反射スポットの視射角依存性を測定した。現在、動力学的回折理論に基づいた計算を行い、原子位置の決定を行っている。
深谷 有喜; 河裾 厚男; 林 和彦; 一宮 彪彦
Applied Surface Science, 237(1-4), p.29 - 33, 2004/10
陽電子に対する結晶中の屈折率が1以下であるため、陽電子ビームは、臨界角以下の表面すれすれの角度で入射させると全反射を起こす。全反射領域における回折波は、結晶内部にほとんど進入することができないため、最表面の原子位置・熱振動の情報のみを反映していると考えられる。したがって、全反射領域における陽電子回折強度を解析することにより、最表面の構造・物性に関する情報を選択的に得ることができる。本講演では、シリコン(Si)の(111)の最表面原子の熱振動の振る舞いに注目し、反射高速陽電子回折(RHEPD)強度の測定及び強度解析を行った。初めに動力学的回折理論に基づくRHEPD強度計算を行った。結晶表面のデバイ温度を一定として、バルクのデバイ温度を変化させてRHEPD強度の温度依存性を計算したところ、全反射領域における回折強度は、バルクの熱振動には全く影響されないことが確かめられた。以上のことにより、全反射領域におけるRHEPD強度が真の表面デバイ温度を決定するうえで非常に有効であることがわかった。講演では、全反射領域におけるRHEPD強度の実測値と計算値との比較から、Si(111)表面の最表面原子の熱振動の振る舞いについて報告する。
林 和彦; 深谷 有喜; 河裾 厚男; 一宮 彪彦
Applied Surface Science, 237(1-4), p.34 - 39, 2004/10
反射高速陽電子回折(RHEPD)では、結晶ポテンシャルが正であるため、全反射が観察される。全反射領域では、陽電子は最表面原子で回折されるため、多重散乱の効果が無視できると期待される。その場合、RHEPD強度は運動学的な計算で解析できると考えられる。本研究において、実験で得られたRHEPDパターンを運動学的な解析結果と動力学的な解析結果と比較することで、運動学的な解析の有効性について調べる。実験は、Si(111)77表面に20keVの陽電子を入射させて行った。この実験系では、臨界角は1.4である。全反射領域では、1/7, 2/7, 3/7ラウエゾーンのスポットが明るく、特に(0, 1/7)から(5/7, 6/7)あたりのスポット,(9/7, 10/7)スポット,(8/7, 10/7)スポットの強度が強い。運動学的及び動力学的な計算結果からも、これらのスポットの強度が強くなる結果が得られた。運動学的な計算において、考慮する原子数を単位ユニット内の200個から最表面原子の90個に減少しても、その結果に大きな変化はなかった。これは、陽電子の回折が最表面原子でおもに起きていることを示している。これらの結果から、RHEPDにおいて運動学的な解析は有効な方法であると考えられる。
桐山 幸治*; 高橋 正光; 塩飽 秀啓
JAERI-Tech 2004-017, 39 Pages, 2004/03
SPring-8/BL11XUでは放射光の集光と結晶による高調波を除去するために70cm長の全反射ミラーを導入した。SiOを基盤とするこのミラーは、広いエネルギー領域で使用できるよう、上下2箇所にPtとRhのコーティングを施し、おおよそ6KeVから35KeV程度まで利用できる。BL11XU実験ハッチ3においてミラーの特性評価を行った結果、ミラーを利用したX線は、集光前の入射光に対して、約3倍の強度,3分の1の半値幅となり、高調波の除去も良好であった。ミラーを利用した放射光利用実験を円滑に進めるために、ミラーを正確かつ短時間に調整することが必要である。しかし、これまでに立ち上げ手順や操作手順が系統的にまとめられていないために、必ずしも効率の作業ができるとはいえなかった。そこで、BL11XUでは、作業手順を整理し、系統的なマニュアルを作成した。マニュアル化されたことによって、ミラーの使用経験・調整経験の少ない実験者であってもミラーを容易に使用・調整することが可能になった。
河裾 厚男; 深谷 有喜; 林 和彦; 前川 雅樹; 石本 貴幸*; 岡田 漱平; 一宮 彪彦*
Materials Science Forum, 445-446, p.385 - 389, 2004/02
これまで、われわれは反射高速陽電子回折における全反射と一次ブラッグピークの存在を実証した。しかしながら、最構成表面に付随する分数次回折点の観測には至っていなかった。そこで、Si(111)77を用いて陽電子回折実験を行った。その結果、陽電子回折図形における1/7から3/7の分数次ラウエ帯の存在を発見した。さらに、鏡面反射点の入射視射角依存性(ロッキング曲線)を決定し、アドアトムによる陽電子の非弾性散乱に起因する構造を見いだした。従来の電子回折実験で決められている原子配置と吸収ポテンシャルを使用すると、実験結果が再現されないことから、これらのパラメータを変更する必要があることが判明した。
河裾 厚男; 深谷 有喜; 林 和彦; 前川 雅樹; 岡田 漱平; 一宮 彪彦
Physical Review B, 68(24), p.241313_1 - 241313_4, 2003/12
被引用回数:25 パーセンタイル:72.76(Materials Science, Multidisciplinary)本論文では、よく収束された20keVの陽電子ビームを用いたSi(111)-77再構成表面からの初めての陽電子回折の結果について報告する。1/7次から3/7次の陽電子回折パターンが明瞭に観測された。全反射ロッキング曲線を動力学回折理論によって解析したところ、表面付着原子(アドアトム)が積層欠陥層から約1.52の位置にあることが明らかになった。これは、従来の理論値よりも大きな値であり、アドアトムが真空側に大きく変位していることを示している。
江坂 文孝
ぶんせき, 2003(11), p.688 - 691, 2003/11
保障措置環境試料中に含まれる個々の核物質粒子の同位体比分析のために、二次イオン質量分析法を適用し、検討した。また、試料からの粒子の回収方法について検討するとともに、あらかじめ試料中の核物質の量を高感度に調べるために全反射蛍光X線分析法を適用した。その結果、粒径1um程度の粒子の同位体比を効率的に分析する方法を確立した。
河裾 厚男; 一宮 彪彦*
表面科学, 24(3), p.174 - 180, 2003/03
これまで原研において、世界で初めて開発した反射高速陽電子回折法の原理からそれを用いたSiC表面構造研究まで、最新のトピックスを含めて解説する。反射高速陽電子回折では、電子の場合には、決して起こらない表面全反射現象が出現する。これは、一宮によって運動学的考察と動力学回折理論の両面から与えられた理論的予測であった。一方、われわれのグループでは、この予測を実証すべく装置開発を推進し、一次ラウエ斑点を含むほぼ完全な回折パターンの観測に至った。その後、S(111)表面の構造解析を行い、赤外吸収や原子間力顕微鏡では、見つけることが難しかった表面ラフネスの検出に成功した。最近では、高温水素処理したSiC表面,犠牲酸化したSiC表面を評価し、Si-Oが表面に付着しており、全反射回折強度のオフブラッグ反射を誘発することが判明した。Si-O結合長距離を決定し、従来の値との比較を進めている。
河裾 厚男
Isotope News, (575), p.2 - 4, 2002/03
世界に先駆けて原研が開発した反射高速陽電子回折技術の概要と応用例についてわかり易く解説する。電子の反物質である陽電子を用いる陽電子回折技術によって、状来の電子回折では難しいとされていた表面第一層の構造解析が可能になり、超薄膜や表面触媒材料開発への応用が期待されている。一宮によれば陽電子は物質から反発力を受けるため、ある特定の入射角のときに表面において全反射される。原研では、静電的な手法で形成した陽電子ビームをコリメートすることで小径・高平行ビームを形成し、世界初となる陽電子回折図形の観測に成功するとともに、全反射効果を確認した。また、これまで原子尺度で平坦であると考えられていた水素終端Si表面の全反射強度測定を行ったところ、原子平坦表面に対して期待されない挙動が現れることを見い出した。動力学計算に基づく解析により、この結果が、トリハイドライド付着構造であることが明らかになった。
鈴木 正年; 川端 祐司; 高橋 秀武; 坂本 正誠
JAERI-M 86-037, 21 Pages, 1986/03
本稿は中性子導管の最も重要な要素である金属鏡面の中性子反射率について実機に採用するものと同等仕様のニッケル蒸着ガラスを用いて測定した結果をまとめたものである。また、炉心近傍の核的・熱的に厳しい条件下にある水平実験孔内に設置する中性子導管について、ニッケル蒸着ガラスに代わる鏡面として、金属ニッケルを研磨した中性子導管が採用できるか否かを知る為 3段階の表面粗度をもつ鏡面についても反射率の測定を行った。測定の結果、ニッケル蒸着ガラスについては今回の供試体程度の表面状態であれば中性子導管としての性能を発揮できることが確認出来た。3段階の表面粗度をもつニッケル板については、表面状態の優劣が反射率の優劣に依存していること、供試体中、最良のニッケル板でも導管には不適であるとのデ-タを得た。
下桶 敬則; M.M.Levine*
JAERI-M 6389, 122 Pages, 1976/02
フォーカライザー、即ち中性子全反射円錐管は中性子の全反射現象を利用した中性子束ビームのコリメーションおよびその強度の増大を実現させる装置である。本報告書はこの様な装置から発生する中性子束の強度とそのエネルギー・スペクトルを計算する計算コードFOCUSについて記述したものである。記述の内容は、同コードを計算機にかけるために必要となる入力およびその出力の手順等、コード使用上に必要な事項が網羅されている。
馬場 祐治; 下山 巖; 平尾 法恵; 和泉 寿範
no journal, ,
粘土鉱物の主要成分である二酸化ケイ素、アルミナおよびマイカ(人造雲母)表面に極微量のセシウムを吸着させ、その結合状態を放射光を用いた全反射X線光電子分光法(TR-XPS)で解析した。比較のため他のアルカリ金属に関しても実験を行った。入射するX線の角度を表面すれすれにして全反射条件にすると、XPSにおけるCs 3d領域のバックグラウンドは、通常のXPSの1/10以下に低下し、200ピコグラムまでの極微量のセシウムの結合状態解析が可能となった。基板を塩化セシウムの溶液に浸してセシウムを吸着させた試料を水で洗浄すると、洗浄に伴い、Cs 3dの結合エネルギーは高エネルギー側にシフトした。さらに試料を超音波洗浄した後でも、わずかにピークが認められ、その結合エネルギーは洗浄前に比べ0.8eV高結合エネルギー側にシフトした。このことから洗浄後に残った"取れにくい"極微量のCsは、通常の吸着状態より、Csと基板間の分極が小さく、共有結合に近い結合状態をとることが明らかとなった。
馬場 祐治; 下山 巖; 平尾 法恵; 和泉 寿範
no journal, ,
粘土鉱物に吸着した放射性セシウムの化学結合状態を直接分光学的手法で観察することを目的とし、粘土鉱物の主要成分である石英、アルミナ、雲母に吸着したセシウムおよび他のアルカリ金属の化学結合状態を放射光を用いたX線光電子分光法(XPS)で調べた。実際の放射性セシウムの原子数は極めてわずかであるため、マクロ量のセシウムと異なる結合状態をとると考えられる。そこで検出感度を上げるため、X線の全反射現条件でXPSを測定した。その結果、Cs-137の原子数に匹敵する極微量のセシウムおよび他のアルカリ金属のXPS測定が可能であることがわかった。XPSスペクトルにおける内殻結合エネルギーを比較したところ、雲母に吸着した極微量のセシウムはマクロ量のセシウムに比べて、よりプラスに帯電していることがわかった。これは雲母中の酸素のマイナス電荷の影響により、セシウムと酸素の間にイオン結合性が強い化学状態が生じるためと考えられる。このことは、極微量になると生じる特異な化学結合状態が、放射性セシウムが脱離しにくい理由のひとつであることを示唆している。
馬場 祐治; 下山 巖; 平尾 法恵
no journal, ,
粘土鉱物や土壌中の放射性セシウムの化学結合状態を明らかにするため、マイカなどの層状酸化物に収着したセシウムおよび他のアルカリ金属についてX線光電子分光(XPS)測定を行った。Csなど放射性核種の原子数は極めて少ないため、これらの放射性核種の原子数に匹敵する極微量原子の化学結合状態を直接観察する目的で、入射X線の全反射条件でXPSスペクトルを測定した。この方法により、1000分の1層程度の極微量のXPS測定が可能となった。セシウムおよびルビジウムの場合、XPSの内殻結合エネルギーは収着量の減少とともに低エネルギー側にシフトした。一方、ナトリウムの場合は反対に高エネルギー側にシフトした。これらの化学シフトを点電荷モデルにより考察した結果、マイカ表層のセシウムおよびルビジウムは、微量になるほどイオン結合性が強い状態で収着していることを明らかにした。
馬場 祐治; 下山 巖; 平尾 法恵
no journal, ,
酸化物(SiO, AlO)や層状酸化物(マイカ)などに吸着した放射性Csの化学結合状態を明らかにするため、Csの原子数に相当する超微量Csおよび他のアルカリ金属(Na, Rb)について、放射光を用いた全反射X線光電子分光(TR-XPS)測定を行った。TR-XPSにより1/1000層(1cmあたり約200BqのCsに相当)までの超微量CsのXPS測定が可能であった。XPSの内殻結合エネルギーシフトと吸着量の関係を調べた結果、超微量になるほどCsの内殻結合エネルギーは低エネルギー側に、Naは反対に高エネルギー側にシフトした。これらのXPS化学シフトを点電荷モデルで解析した結果、マイカに吸着したCsおよびNaは、超微量になるとイオン結合性が強い状態で吸着していることがわかった。